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「繊月花-新撰組外伝-」
君に恋をした-桂小五郎の恋-

23 永い夜のその向こう

 ←永遠の憧れ-アラン・ドロン →苦い?甘い?

「何がそんなに面白いんだ」

まだ頭上には陽が輝いていたが、季節はすでに秋も半ばだ
甲板を吹き抜ける風は冷たく、海面には白波が立っているというのに
代り映えのない海原を飽きもせず眺めている染花に、桂は苦笑した

「だって、ずっと向こうまで海なんですもの」

はるか水平線を指さして染花は笑う
旅だった港はもちろんもう見えないが
海と言っても、ここは瀬戸内だ
ところどころに島影が見え隠れしているし、少し先には陸地があるのだが
それでも染花にとっては、果てしなく広がる大海原なのだろう

「これくらいで喜んでちゃ、異国へ行ったら目ん玉が落ちるかもしれねえな」
「異国、ですか?」

驚いたように自分を見上げる染花に、桂は目を細める
生まれ育った山奥の村と、連れてこられた萩の町
それが世界の全てで、京の都や江戸の町さえもが夢物語であっただろう染花にとって、遠い海の向こうの異国など、想像したことさせないだろう
かくいう自分とて、実際に異国の地を踏んだことがあるわけではないのだが

「…桂さまは、いつか異国へ行かれるのですか?」

ほんの少し、染花の頬に陰りが落ちる

いつか。

いつか異国の地を見てみたい
まだ見ぬ大きな世界をこの目で確かめてみたい
そんな思いがないと言えば嘘になるけれど

「いつか、か」

小さく呟くと、桂は染花の細い肩を抱き寄せた
けれど、その問いかけに答えることはしなかった


明日の朝には大坂の港につくという夜
その夜 海は荒れていた
日ごろ穏やかな瀬戸内の海には珍しく、船に打ち付ける波は激しい
人目を忍ぶ道行のため、目立たぬ船を選んだことが災いしたか
雨風をしのげるだけましという船倉は、右へ左へ大きく揺れた
震える染花の肩をしっかりと抱きしめ、桂は低くささやく

「大丈夫だ。この程度の嵐なら、俺は何度も経験してる」
「は、はい」

無理やりに貼りつかせたであろう笑みはひきつっていて
誰がどう見ても怯えている染花に、桂は安心させるように笑いかけた

「一晩眠れば、朝には港に着く。それまでの辛抱だ」
「はい」

たかが一晩、されど一晩だ
船そのものが初めての染花にとっては、嵐の海で過ごす夜など途方もなく永い時間に感じるだろう
ゆっくり眠れるとは思えないが、少しでも不安は消してやりたかった
桂はいささか強引に思えるほど強い力で、染花を抱きしめた

「朝がくりゃ嵐もおさまってる。安心して寝てろ」
「…はい、桂さま」

腕の中に抱きこんだ染花の身体からふっと力が抜けるのがわかる
まるですべてを託すかのように、自分の胸にもたれかかる染花の髪に
桂はそっと口づけた


生まれたときから海はそばにあった
少し大きくなれば褌一枚で水の中に飛び込み、泳ぎを覚えるのがこの町の男で
だから、海を見たことがないと言った少女に驚き
初めて見る海に目を瞬かせ、嬉しそうに笑った顔が忘れられなかった

肩を並べて歩いた
そっと手に触れた
一緒に来いと告げた

ほのかな甘さを纏った思い出の中には いつだって海があって
寄せては返す波さえも自分たちを祝福してくれている
そう思っていた

この夜まで

*ようやくの桂話再開だけど、あら?なんだか話が思わぬほうにw

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~ Comment ~

 

桂さん…♡

染花、ついて行ったのね。
なんか、凪いでる海と桂さんて似合う。
そして、荒れてる海でも桂さんの腕の中にいたら安心するんだろうなぁ。
なんか、桂さんに全幅の信頼を寄せている染花も可愛いなぁ。

>この夜まで
……うん、覚悟は出来てる…はず 笑

あーやん 

読んでくれてありがとー!
ホントに待たせてごめんよう
しかも待たせた上にこの展開w

桂も高杉もやっぱり「海」がイメージなんだよね
あーやんの言う通り、桂は穏やかな海がすごく似合うと思う
高杉はまあ、嵐ぽいかもしれんが

>>この夜まで
>……うん、覚悟は出来てる…はず 笑

…そ、そーなんだ 汗
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