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「薄桜鬼 土方歳三」
恋するふたり(短編)

ぎこちなく微笑んで

 ←こんなに近くにいても →鼓動は思うより正直で

雨音で目が覚めた。
宵の口から降り始めた雨は、夜半を過ぎても一向に止む気配はない。

明日も雨か。

土方は布団の中で寝がえりを打った。
たまった仕事を片付けて、ようやく寝床に潜り込んだのがつい半刻ほど前のこと。
明日もやらねばならぬことが山積みだし。
もう一度寝なおすか、と土方は目を閉じた。

と、雨音に混じって別の音が耳に届き、土方は意識をはっきりと覚醒させた。
無駄のない身のこなしで布団を出て、枕元の刀を手にする。

この雨の中、この刻限。
こともあろうに新撰組屯所に押し入るような無謀な輩がいるとは考えにくいが、それでも万が一ということもある。

そしてもうひとつの可能性。
その場合のことを考え、土方は僅かに眉間に皺を寄せた。
考えたくはない。考えたくはないが、もしそうならば、今夜、自分の愛刀・兼定は純白の血で染まることになる。

土方は溜息をひとつつくと、静かに障子を開けた。


雨がかかる縁側に、体が濡れることも構わず千鶴は腰をおろしていた。
何を見ているわけでもない。ただそこに座っているだけ。
雨に煙るその横顔は、昼間見せている姿からは想像できないほどの翳りを帯びていて、土方は思わず息をのんだ。

千鶴が新撰組に保護-という名の監視下におかれてから半年以上が過ぎた。
初めて会ったあの頃に比べれば、随分打ち解けてはいるし、先だっての池田屋騒動では伝令役まで務めた娘だ。
他の幹部連中は、心情的にすでに監視という任務を放棄してしまっているが、土方は、立場上そういうわけにはいかなかった。

土方だって、今さら千鶴が逃げ出すとは考えていないし、まして敵側の間者であるなどと露ほども思っていない。
それでも、何が起こるかわからない。千鶴本人にその気がなくても、彼女の存在を知った何者かに利用される可能性だってある。

信用するとか、心を許すとか。そういう問題ではないのだ。

それでも。
今夜、目の前にいる千鶴に刀を向ける必要はないだろうと土方は思った。
そっと愛刀を壁に立てかけると、ゆっくりと千鶴に歩み寄る。
雨音のおかげか、それとも気配を消す土方の習性のせいか。
近づく土方に千鶴が気付くことはなかった。

「-おい。」

背後から低く声をかけると、それこそ文字通り千鶴は飛び上がって驚いた。
目をまん丸に見開き、あたふたと慌てふためく千鶴に苦笑する。

俺は化け物かよ。

千鶴は、そう文句のひとつも言いたくなるような顔をしていた。

「ひ、土方さん。」

時刻を気にしたのだろう、さすがに大声を上げることはなかったが、それでも千鶴の声は上ずっている。

「そんなに驚く事はねえだろうが。」

ぶっきらぼうに言ったのはわざとだ。
普段、少女が目にしている姿の方が緊張も解けるだろう、と思ったから。

「こんなとこに座ってちゃ濡れるだろうが。」

少女の背後に立ちながら、真っ黒な空を見上げる。
降りしきる雨の滴が土方の頬を濡らした。

「・・・そうなんですけど。」

千鶴は曖昧に笑った。こんな笑い方も珍しい。
土方は僅かに目を細めた。

「なんだ。眠れねえのか?」
「雨音で目が覚めてしまって。でも、もう寝ます。申し訳ありませんでした。」

最後に謝罪を言ったのは、勝手に部屋を出てしまったことに対してだろうか。

部屋を出て縁側に座っているだけ。
ただそれだけの事なのに、こうして謝罪せねばならぬ立場に追いやっているのは、他でもない自分なのだ。

土方の胸に苦いものが駆けあがってくる。

それでも優しく微笑み返してやることはできない。
たとえ、そうしてやりたくても、だ。
優しくすることは簡単だ。
けれど、変に情をかけることはお互いのためにはならない。
これからどうなるのかなど、誰にもわからないのだから。

もしもの時。躊躇うことがないように。

それがこの半年、土方が己に課していた自制の理由だった。

そんな土方の思いをよそに、千鶴は立ち上がると、静かに頭を下げた。
そのまま俯き加減に土方の脇をすり抜けてゆく。

-その細い腕を掴んだ理由は、土方にもわからない。
掴まれた千鶴はもちろん、土方自身も驚いたのだけれど、それを表情に出さぬほどには土方は世慣れていた。

「あの、土方さん」

戸惑ったように自分を見上げている千鶴に、土方は眉ひとつ動かさず、低く告げた。
何事もなかったように、手を離す。

「・・・俺も眠れねえ。こんな時刻に済まねえが、茶を淹れてくれねえか。」

その言葉に千鶴の表情がぱっと輝いてみえたのは、錯覚だろうか。
少女のためではない。
それが、自分の良心の呵責を慰めるためだということを土方は自覚している。

「-はい!すぐにお持ちします。」

そう言って千鶴は嬉しそうに笑った。
それはきっと心からの笑み。
土方はそれだけで胸のつかえがとれたような気がした。

笑う千鶴に応えるように土方も微笑を浮かべてみせたが、どこかぎこちない笑みだった。


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~ Comment ~

NoTitle 

アップありがとうです☆

それにしてもうさぎさん、カテゴリが多岐にわたってますよねー。すごいっっ
毎日毎日いろんなジャンルが読めて超幸せ。
土方vs高杉カテゴリとか、くすっと笑ってしまったよう♪

今回は雨の日のお話なんですね。
夜の雨ってなんだか幻想的。

>考えたくはない。考えたくはないが、もしそうならば、今夜、自分の愛刀・兼定は純白の血で染まることになる。

「もしそうならば」
これって、千鶴が逃げ出そうとしてるって意味でしょうか?
違ったらすんごく恥ずかしいw
もしそうなら、土方の溜息が辛いです。

今回の話って、土方の「副長としての責務」と「一人の人間としての思い」の、せめぎ合いですよね。
雨が降っているというのが、土方の葛藤によく似合う。

>俺は化け物かよ。

苦笑する土方が目に浮かぶ…
しかも、

>普段、少女が目にしている姿の方が緊張も解けるだろう、と思ったから。

このさりげない優しさが!すごく土方っぽくてきゅんとしました。
私には思いつかない絶対。大人だよ…

>ただそれだけの事なのに、こうして謝罪せねばならぬ立場に追いやっているのは、他でもない自分なのだ。

これも痛かったなあ…
土方は察しが良すぎるんですよ。だからこうやって苦しんじゃう。
もっと鈍感なら楽だったのに、ね。

>もしもの時。躊躇うことがないように。

辛い立場だよね。
もし。万が一。
それを常に念頭に置いて、本当なら優しくしてやりたい相手にも壁を作る。
昨日の総司といい、なんか切ないーーーーーー(>_<)

この直前に土方が千鶴の腕を掴むっていうのも、ググっときました。
本来の情の深い性質が出ちゃってて。
理性だけで抑え込むのは辛いだろうに。

>「・・・俺も眠れねえ。こんな時刻に済まねえが、茶を淹れてくれねえか。」

ううううっっっっ
今してやれる精一杯の気遣いがこれなんだね。

>「-はい!すぐにお持ちします。」
>そう言って千鶴は嬉しそうに笑った。

千鶴も健気で泣ける。
この子をもしかしたら斬らなきゃいけない、なんてそりゃ思いたくないよ。

私ギャグばっかでごめん千鶴、って心から思ったw

このワンシーンの切り取り方、秀逸ですね。

沁みる話でした…ありがとうございますー!!

グリーンさん 

コメントありがとうございます!

>カテゴリが多岐にわたってますよねー。

単に節操がないだけです(笑)

こういう短編って実は苦手でww
ゴール(最後)が決まってて、そこまで繋げていくのはいいんですけど、独立してるお話はなかなかネタが思いつかない。
なので、行き当たりばったりで色んなのに手を出してしまうのさw

>これって、千鶴が逃げ出そうとしてるって意味でしょうか?

はい!その通り!
まあ、池田屋も終わってる時期だし、土方も「千鶴が逃げる」とは思ってはいないんだけど。
でも「副長」としての立場が、こうさせてしまう。
この人、案外真面目だと思うのでv

>土方の「副長としての責務」と「一人の人間としての思い」の、せめぎ合い

まさにそれ!
いつもながらグリーンさんの察しの良さには感激です!!

>土方は察しが良すぎるんですよ。だからこうやって苦しんじゃう。

ほんとに。
もっと不真面目でもいいのにって思う。
それこそリレーで書いてるくらいの開き直りがあれば、もっと別の運命があっただろうに。

>昨日の総司といい、なんか切ないーーーーーー(>_<)

あわわ!すみません!
ホントはもっと幸せなお話が書きたくて二次を始めたんだけど。
なぜかこの類になってしまうw
そもそも薄桜鬼がせつない話だから悪いんだ!(責任転嫁w)

>私ギャグばっかでごめん千鶴、って心から思ったw

いえいえ!
私はグリーンさんの書く千鶴が好きだ!
多少デフォはあるかもしれないけど、本来の千鶴ってもっと明るくって、ある意味たくましい子だと思うんですよ。
じゃなきゃ、あんな境遇で生きていけねーよw

>沁みる話でした…ありがとうございますー!!

こちらこそありがとうです!
次は予定では総司かな?

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