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「繊月花-新撰組外伝-」
万華鏡-想いの欠片-

あるはずのない温もり

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俺が屋敷に戻った時、いつも出迎えに駆けてくる姿がなかった。
出かけるときは、よほどの事がない限り俺はあいつを連れて出る。
けど、今回はそういうわけにはいかず-士族の子弟のみの会合だったから-あいつは屋敷に残して行った。

予定の日より少し遅くはなったものの、戻りの刻限は事前に知らせてあったから出迎えがあって当然のはずだったのに。

屋敷中を探してもあいつはいない。使用人を問い詰めても、知らぬ存ぜぬを繰り返すばかり。
そこで俺は気付く。

これは親父の手が入ってるな。

あいつを傍に置くことに、親父はいい顔をしていなかった。
使用人としてならともかく、俺があいつに対して使用人以上の扱いをしているのが気に入らなかったんだろう。
かといって、俺が素直に言うことを聞く人間じゃねえことは親父が一番よく知っている。
だから俺の留守を狙って、あいつを追いだしたってとこだろうな。

やってくれるじゃねえか。
けど、俺の性格も知ってるはずだよな。

俺は迷いなく親父のところへ行った。
なんの用かは、俺の顔をみりゃ聞かずともわかったんだろう。
親父は苦虫を噛み潰したような顔をしていた。

俺は怒鳴るような真似はしなかった。
ただ一言。こう言った。

「俺は家を出る。あいつがいねえんじゃ、こんな家にいてもしょうがねえ。」

それが脅しでもなんでもなく、本気であることは親父にもわかったはずだ。
うろたえて俺を止める親父の手を振り切って、俺はそのまま屋敷を飛び出した。

高杉の家に男子は俺だけだ。嫡子である俺がいなくなりゃ、誰が跡を継ぐんだって大騒ぎになるだろうが、知ったこっちゃねえ。
妹に婿を取るって方法もあるからな。好きにすりゃあいい。

てなわけで。
俺はさっさと家を出た。
とりあえず、あいつを探さなきゃならねえ。

親父のことだ。たいした手は使ってねえだろう。人を使って遠くへやっちまうような面倒くせえことはしてねえはずだ。
親父は、なんだかんだ言って体面を気にする人間だ。高杉の当主が人買いに子供を売り飛ばしたなんて醜聞に耐えられる奴じゃねえし。
せいぜい小さな荷物ひとつ持たせて、家から追い出すくらいが関の山だろうな。

で、あのチビが自力で行けるとこってなると、場所は限られてくる。
少なくとも萩の町は出ちゃいねえだろう。
かといって町中にはいかねえはずだ。俺が連れて歩いてるから、あいつの顔は売れてるからな。一人で出歩いてちゃ、誰かが声をかけて屋敷まで送り届けるだろう。あいつはチビのくせに、その辺の知恵は回る奴だしよ。
追い出された自分が屋敷へ戻るわけにはいかねえ。親父っていうより、俺に迷惑をかける。そんなことは出来ない。
って、そう考えるバカなんだよな、あいつは。

萩の町は一方が海、三方は山だ。
海に出たところで、どうしようもねえ。
ってことは。
-山、か。


やべえな。

山道を登りながら、俺は舌を打つ。日暮が近いこともあるが、雲行きが怪しくなってきた。
真冬じゃねえから、寒いってことはねえだろうが、こりゃあ一雨くるだろう。
雨だけならなんとかしのげるだろうが、問題は-。

ほら、来やがった。

俺の耳に届いたのは、低い雷鳴。
なんてことはねえ雷だが、あいつはこれに弱い。
弱いどころの騒ぎじゃねえ。これでもかってくらい怯えやがる。普段は涙ひとつ見せない気丈な奴だが、雷だけは駄目だった。なんでかは知らねえけどよ。

ったく。世話をかける奴だ。
なんで俺がこんなことをしなきゃならねえんだ。

なんてことを思いながら、俺は慣れた山道をひたすら上る。
あてがないわけじゃなかった。
山ん中を闇雲に歩きまわるほど、俺はバカじゃねえ。
俺はあいつを連れてこの山に登ったことがある。
それほど高い山じゃねえが、人があんまり来ねえのと見晴らしがいい場所があるんで、俺はこの山が好きだった。

屋敷を追い出されたあいつに、他に行く場所はねえ。
十中八九、ここにいる。
それは俺の直感だった。

雨と雷が追いついてきたのか、俺が追いついたのかはわからねえが。
少なくとも俺が目的の場所にたどり着いたとき、山は大荒れの天気だった。
雨は降るわ、雷は鳴るわで、俺でさえ顔を顰めるほどの天候で。
そんな中で、こいつはよくもまあ一人で耐えてたもんだ。

山の中腹にちょうど開けた場所がある。そこからは萩の町と海が一望できた。
俺はここから眺める景色が好きだった。誰にも教えたことはねえけどな。
・・・いや、桂は一度だけ連れて来てやったけど。

そこに立つ一本の大木の陰にうずくまっている小さな体。
鳴り響く雷に怯えながら、それでも叫び声はあげてはいなかった。
俺はゆっくりと近づいた。

「・・おい。」

俺の声に、そいつは-紫苑は顔をあげた。泣きはらしたのだろうか、目が真っ赤だった。
「・・・バカか、てめえは。」
呆れたように俺は言った。髪も体もなにもかも。雨にぐっしょり濡れている。まあ、それは俺も同じだったが。
「こんなとこでなにしてやがる。」
「・・・だって。」
「だってもくそもねえだろうが。」
そんなつもりはなかったのだが、俺は怒っているように見えたのかもしれない。
紫苑はびくっと肩を震わせた。
「お前は俺のもんだって言っただろうが。勝手な真似、してんじゃねえ。」
「だって。」
まだ言うか。俺はしつこいのは嫌いだ。
「うるせえ。」
俺は紫苑の隣にどかっと座ると、その体を-冷え切った体を思いきり抱きしめた。
「坊ちゃん・・・!」
「その呼び方はやめろって言っただろうが。」
「でも。」
「俺が寒いんだよ。ちょっとあっためさせろ。」

これは俺のもんだ。どこへもやらねえ。誰にも渡さねえ。
家も身分も要らねえ。
こいつを手放すくらいなら、そんなもん捨ててやる。

腕の中で震えている小さな小さな温もりを俺はありったけの力で抱え込んだ。

翌朝。
そのまま眠ってしまった俺たちを見つけたのは、やっぱり桂だった。



眼下に広がる風景は、以前となにもかわっちゃいなかった。
空も海も町並みも。
そして、ふたりで身を寄せた大木も。

ただひとつ。
あの時、腕の中にいたあいつは、もういない。

なんで俺はここへ来た。
ガキの頃の、他愛ない感傷に耽るためか。

それとも。
もう一度思い出すためか。

あるはずのないあの温もりを。


見下ろす景色は、なにも答えてはくれなかった。


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~ Comment ~

 

アップありがとうございます!
今回は泣かずに済んだw
でもしんみりしたなあ…
高杉と紫苑って、1回離れてるから切ないですよね。
とはいえ、繊月花と違って取り戻そうと足掻く高杉にグッとくるぞー!
がんばれ高杉。なんとかするんだ。

ちょいちょい出てくる桂の名前にほんわかしますw
細かい感想は改めて書きますねー!

NoTitle 

では感想書かせていただきまーす!

今回の高杉はちょっと若いということもあり、
いつもより動きがありますね!

>これは親父の手が入ってるな。
>だから俺の留守を狙って、あいつを追いだしたってとこだろうな。

なるほど、親父殿の手引きですか。
もっとカッとなるかと思いきや、冷静な判断を下していたのでさすが高杉!と思いました(゚∀゚)
「やってくれるじゃねえか。けど、俺の性格も知ってるはずだよな」なんて、
すごくかっこいいセリフです!不敵に笑う高杉の顔が浮かびます。

>うろたえて俺を止める親父の手を振り切って、俺はそのまま屋敷を飛び出した。

親父殿が予想より弱かったので安心しましたw
二人(高杉・紫苑)の前にどどーんと立ちはだかるボス格だったら面倒ですもんね!

>てなわけで。
>俺はさっさと家を出た。

ここ、ちょっと笑ってしまいました!!
さっさと出たんだw

>あいつはチビのくせに、その辺の知恵は回る奴だしよ。

これ、なんか愛情感じて微笑ましかったです♪
チビと知恵は関係ないしw
しかもなんだかんだいってめちゃくちゃ探し回ってるわけで、
素直じゃねえなあ(´∀`*)って思っちゃうー!

>-山、か。
>やべえな。

これ私も分かった!( ´艸`)
高杉が何を心配してるか。
あれだよねあれ。
ピカーッ!ってきてドーン!ってなるやつ。

>ったく。世話をかける奴だ。
>なんで俺がこんなことをしなきゃならねえんだ。

じゃあ探さなきゃいいじゃん(・∀・)
あは!余計な一言だったねごめんごめん高杉!

高杉が、「俺はこの山が好きだった」
「あいつを連れて登ったことがある」「十中八九、ここにいる」
って結論を出す流れがとっても好きです。
予想じゃないんですよね、もう確信なんですよね。

>「お前は俺のもんだって言っただろうが。勝手な真似、してんじゃねえ。」

すっごく殺し文句なのに、「だって」と返す紫苑がかわいい。
この台詞にキュンとするような子じゃないんだよね、多分。
年齢のせいもあるだろうし、そもそも恋愛に疎い子なのかもしれないし。
いろいろ要因はあるんだろうけど、彼女は無垢な子という印象を受けます。

>これは俺のもんだ。どこへもやらねえ。誰にも渡さねえ。
>家も身分も要らねえ。
>こいつを手放すくらいなら、そんなもん捨ててやる。

あーやばい。
私、こういう叫びに近い台詞、すっっごく弱いんです。
刺さりました!

しかも、こうやって決意した日があったのに、
今二人が離れてるというのが何とも言えません。

>あるはずのないあの温もりを。

後悔に浸ってる暇なんてないぞー
別に今からでも遅くないよ。取り戻しに行きなよ。
結果ダメかもしれないけどさ。
何か変わるかもしれないよ!!

なんだかやたらと高杉の味方になって読んでしまいましたw


で!この話の一番大事なところ(?)!

>・・・いや、桂は一度だけ連れて来てやったけど。
>そのまま眠ってしまった俺たちを見つけたのは、やっぱり桂だった。

桂wwwww
やっぱり好きです!!!

グリーンさん 

コメントありがとうございます!

高杉×紫苑の子供時代のお話です。
子供っていうか、まあ、高杉が14.5歳、紫苑が10歳前後かなあ?

>繊月花と違って取り戻そうと足掻く高杉にグッとくるぞー!
がんばれ高杉。なんとかするんだ。

なんとかww
ほんと、このままだったら、きっと幸せだっただろうに。
グリーンさんのおっしゃる通り、素直じゃないから、高杉ってば。

>これ私も分かった!( ´艸`)
高杉が何を心配してるか。

あ。やっぱばれましたか(笑)
そうです。
ぴか、ごろごろ。がっしゃーん。のあれですww

>じゃあ探さなきゃいいじゃん(・∀・)

あはははは!
高杉、グリーンさんに突っ込まれてるしっ!

>結論を出す流れがとっても好きです。
予想じゃないんですよね、もう確信なんですよね。

どこから来るのかわからないけど(笑)、確信してます。高杉。
で、見つけちゃうしwww

>いろいろ要因はあるんだろうけど、彼女は無垢な子という印象を受けます。

捨てられて、高杉に拾われて。
以来、高杉しか目に入ってないんだけれど、それが恋愛感情かと言われると、微妙に違うのかも。
なんか、この二人の関係は恋愛を越えてる気がするwww

>しかも、こうやって決意した日があったのに、
今二人が離れてるというのが何とも言えません。

どこかで釦の掛け違いがあったんですよね。
それがあの「火事」なんですけど。
高杉は「紫苑を失いたくない」から「危険から遠ざけたい」って思ったんだけど、素直じゃないから「言葉」を間違えてしまった。
紫苑は紫苑で「捨てられる」ことに異常なほど敏感だったがゆえに、「捨てられた」と思っちゃった、みたいな?

>別に今からでも遅くないよ。取り戻しに行きなよ。
結果ダメかもしれないけどさ。
何か変わるかもしれないよ!!

だよねー!!
いっそ、結末、かえてやろうかしら(笑)
あ!
でもそうすると、土方の立場が・・・(汗)

>なんだかやたらと高杉の味方になって読んでしまいましたw

わあ!!嬉しいお言葉です!!
私も思いきり、高杉に感情移入して書いてますもんww

>で!この話の一番大事なところ(?)!

これ、感動しました!
何気ない一文なんですけど、桂の存在の大きさを伝えたくって!!

気付いてくれてありがとうっ!!!
やっぱ、桂はアイドルだwww
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