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「薄桜鬼 土方歳三」
恋するふたり(短編)

目を閉じたその先で

 ←事件想起 11 →余裕なんてない

今夜は俺の部屋を使え。

ぶっきらぼうにそう告げられた。
いいんですかと驚いて聞き返すと、しょうがねえだろうが、と忌々しげに言われてしまった。
副長の部屋を使わせてもらうなんて出来ない、と言おうとしたものの。
血にまみれた畳や襖を片付けろと幹部たちに指示を出している姿を見ていたら、それ以上反論することなどできなかった。
せめて部屋の後始末くらい手伝いたかったけれど、それさえ一言のもとに却下されてしまう。

「怪我人はおとなしく引っ込んでろ」

その厳しい声音にはもう何も言えなくて、結局すごすごと部屋を出た。

副長室に入るのは初めてではない。部屋の中でお茶を飲んだこともある。
けれど、その奥の寝間に入るのはもちろん初めてだ。
躊躇いつつも襖を開け、無人のはずの室内にむかって頭を下げたのは無意識だった。
灯りの消えた室内はひんやりとした空気に満ちていた。部屋の真ん中に布団が敷かれていたが、使われていたようには見えない。
いつものように文机に向かって仕事をしている最中に悲鳴が聞こえ、そのまま駆けつけてくれたのだろうか。

羅刹と化した隊士に襲われた千鶴。
間一髪で土方たちに助けられたものの、肩に受けた傷は浅くはない。
着ていた夜着は血で真っ赤に染まってしまっていた。

千鶴は部屋の隅に腰を下ろした。このままの姿では、布団も畳も血まみれになってしまう。
ここに来る前に井上から布と着替えを借りていた。井上はひどく心配して、ありったけの薬や着替えを用意してくれた。
その気持ちはとてもありがたかったが、手当てを手伝おうかという井上の言葉にはさすがに首を振った。
千鶴とて若い娘だ。肌を見られるのは恥ずかしいだろうと、井上もそれ以上は言ってこなかった。

暗がりの中で、千鶴はそっと夜着を脱いだ。手当てをしようと自分の肩に手を触れ-そして自嘲気味に笑う。

すでに血は止まり、傷はふさがりかかっていた。

新しい夜着に着替えると、汚れた夜着と体についた血を拭き取った布をまとめて畳む。これはもう使い物にはならないだろう。雑巾にしようにも、血がついた布で掃除をするのは気が進まない。

朝になったら、処分しよう。
でも、処分するときは細かく裂いたほうがいいのだろうか。

などと、なんだか場違いなことを考えながら、千鶴は壁にもたれかかる。
暗闇にも目が慣れてきて、部屋の様子がおぼろげに見えてきた。
何もない殺風景な部屋。文机さえ置いていない。ただ布団が敷いてあるだけ。
寝間であるから当然といえば当然なのだが、なんだかとても土方らしくて、千鶴は思わず口元を緩めた。

どれくらいの時間が経ったのだろう。
ぼんやりと暗闇を見つめる千鶴の眼から、大粒の涙が零れ落ちた。
咽喉の奥から嗚咽が漏れる。
それを堪えるかのように、千鶴は両手で膝を抱えて顔を埋めた。

怖かった。
斬られるかもしれないことへの恐怖と。
なにより、あんなにも穏やかで理知的だった山南が理性を失ってしまうことへの恐怖。

確かに、左腕の負傷が人柄を変えてしまったかもしれないが、それでも優しい人だった。穏やかな人だった。
理性的で常に落ち着いていて。感情的になることなどあり得ない人で。

それなのに。
人はあれほどまでに変わってしまうものなのか。
-変若水という名の液体によって。

涙は止まらない。体の震えも止めることは出来ない。

怖くて不安で。
何が怖いのか、なにが不安なのか。
自分でもはっきりとはわからない。
けれど、涙は後から後から溢れ出る。

それならばせめて、泣き声だけでも外に聞こえる事がないように。
これ以上、みんなに迷惑をかけないように。

これ以上、厄介者と思われないように。

声を殺して千鶴は泣いた。
その声を部屋の外で聞いていた人間の存在に気付くことなく、泣き疲れて眠ってしまうまで、千鶴の涙は枯れることがなかった。


朝の気配に目を開けたとき、千鶴は布団の中だった。
あれ?とまだはっきりとしない頭で考えてみるが、自分で布団に入った記憶はない。
きょろきょろと部屋を見渡してみるが、当然誰もいなかった。

-寝ぼけてたのかな。

なぜ自分が布団に寝ていたのか不思議に思いつつ、とりあえず身支度を整えながら、千鶴はふと思い出す。

昨夜見た夢、を。

泣いている自分。震えている自分。
しょうがねえな、と苦笑して、自分の手を握ってくれたのはあの人。
いつの間にか眠ってしまった自分をあの人はそっと布団に運んでくれた。

目を閉じたその先で鮮やかに甦る夢。
自分を抱き上げてくれたたくましい腕の感触さえ、まだ肌に残っているような気がする、そんな夢。

そんなはず、ないのに。

千鶴は、脳裏に浮かぶその光景を振り払うように頭を何度も振った。
ふと気付いたように、昨夜受けた肩の傷に目を落とす。

ばっさりと斬られていたはずの傷は、すでに跡形もなく消えていた。

そう。これが現実。
あれは夢-。

穏やかな朝の空気の中で、千鶴は寂しげに目を閉じた。



*お題配布  天球映写機 さま



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~ Comment ~

NoTitle 

アップありがとうございます!
懐かしいですねー狂った隊士に襲われるとこですね!

>今夜は俺の部屋を使え。

ゲームやってた当時は、今夜二人の間に進展が?!なんて思ったものですが。
土方がそんなことするわけもなかったw

>無人のはずの室内にむかって頭を下げた

千鶴っぽい!
何気ない描写だけど印象に残りました。

>いつものように文机に向かって仕事をしている最中に悲鳴が聞こえ、そのまま駆けつけてくれたのだろうか。

きっとそうなんだろうなー。
あんとき真っ先に駆けつけて来てくれたのは土方ですもんね!
「生きてるか!?」が蘇ります!!

>そして自嘲気味に笑う。
>すでに血は止まり、傷はふさがりかかっていた。

自嘲気味という記述が、千鶴の胸の内を思うと悲しくなりますね…
千鶴って子供だし素直なんだけど、こういう笑いをすることもあったんでしょうね。

>ぼんやりと暗闇を見つめる千鶴の眼から、大粒の涙が零れ落ちた。
>これ以上、厄介者と思われないように。

我慢しちゃうってところも、千鶴ですね!(なんかこればっか言ってるなw)
痛々しいなぁ…
泣けばいいのに。
我慢しなくていいのにーー!

>しょうがねえな、と苦笑して、自分の手を握ってくれたのはあの人。

土方さーん!!!
包むような優しさが素敵です!!
そっかそっか。そんなこともあったかもしれないですね、本編に。
しっくりくるもん!

>そう。これが現実。
>あれは夢-。

うまい!!
締め方が絶妙です。
これ好きです、パクリたいwww

グリーンさん 

コメントありがとうございます!

>狂った隊士に襲われるとこですね!

ですです!
良かった!わかっていただけた!!

>ゲームやってた当時は、今夜二人の間に進展が?!なんて思ったものですが。

あははは!私も思ったー!
でも、そんなに甘くはない薄桜鬼・土方ルートwww

薄桜鬼って、当然と言えば当然なんですけど、細かい描写が少ないじゃないですか。
なので、ちと捏造してみたwww
千鶴も鬼とはいえ、若い女の子だし、斬られてるし。
きっと怖かったはずだ!
そして、土方の性格上、そんな千鶴を放っておくはずはない!!
・・・という主観まみれのお話です(笑)
さすがにこのまま押し倒すのはあかんやろ、と自制しましたwww

>締め方が絶妙です。
これ好きです、パクリたいwww

ありがとうございます!
パクるてwww
そんないいもんじゃないですけどww
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