FC2ブログ

「薄桜鬼 土方歳三」
恋するふたり(短編)

髪の香りが胸をくすぐる

 ←事件想起 7 (千鶴編) →たとえそれが気のせいでも

廊下を軋ませる音に、土方は眉を寄せた。
すでに夜は更け、屯所内で起きているのは自分くらいのものだ。
-そんな刻限に、まるで人目を避けているような、そんな足音。
それは本当に微かな音だったのだが、土方の耳にははっきりと届いた。

しばし考え、土方は筆を置いた。
こんな時間に鬼副長の部屋を訪れる物好きはいない-副長を困らせることを楽しみにしている一番組組長は別にして-だろうが、万が一でも誰かの目に触れては困る。
土方は書きかけの文を片付けると、立ち上がった。

障子を開けると、冷たい風が頬を撫でた。
見上げると、漆黒の夜空から白いものがちらちらと舞い落ちてくる。

冷えると思ったら雪か。

土方は羽織の袂の中で腕を組んだ。そのままそっと廊下に出る。
広い境内に人の気配はない。非番で広間で騒いでいた連中も、さすがに部屋に戻って寝ているか、あるいはそのまま酔いつぶれてしまったのだろう。今は声ひとつ聞こえない。

そんな中、先ほど聞こえた足音は、確実にこちらに向かってきている。
土方は目を細め、暗闇を見据えた。

暗がりの中、白い影がゆっくりと近づいてくる。廊下の端を遠慮がちに進むその影は、やがてはっきりとした形を取った。
廊下の途中で立ち止まり、音もなく舞う雪を嬉しそうに眺めているその姿に、土方は小さく溜息をついた。

「・・・こんな時間になにしてやがる。」

何の気配も感じていなかったのだろう。背後から突然響いた低い声に、千鶴はわかりやすいほど肩を揺らせた。「ひっ!」という声に土方は眉間に皺を寄せたが、大声で叫ばれなかっただけでもましかもしれない。

「ひ、土方さんっ!」
無意識に後ずさった千鶴だったが、上げた視線の先に土方を見つけ、もう一度短い悲鳴を上げた。

「・・・なんでそんなに驚くんだ。」
まるで化け物でも見たような千鶴の様子に、ますます土方の眉間の皺が深まる。
「あ、あの、その!」
「こんな時間に何してんだよ、おめえ。」
土方はもう一度繰り返した。さすがに声音にほんの少し柔かさを加えたのは、土方なりの気遣いでもあった。
本気で動揺している少女をこれ以上怯えさせる必要はない。

「あ、あの・・・」
千鶴は夜目にもわかるほど頬を赤く染めていた。
怪訝そうに彼女を一瞥し、そして土方はその意味を知る。

千鶴は湯上りだった。冬だというのに薄い夜着を一枚纏っただけの姿が薄闇にぼんやりと浮かびあがっている。下ろされた髪はまだ濡れていた。
月明かりのない夜だからこそ、この程度で済んでいるのだろう。これがもし満天の星空の下であったなら、その姿はもっとはっきりとしたものになっていたかもしれない。

「す、すみません!今、お湯をいただいて・・・」
千鶴は夜着の襟元を手で掴み、俯いた。
「湯って・・・お前、こんな時間にか?」

千鶴はいつも一番最後に湯を使っている。それは土方も知っていた。一番最後であれば、誰かと鉢合わせになる心配はないし、千鶴自身も気兼ねなくゆっくり湯に浸かれるだろう。
そう考え、土方も何も言わなかったのだ。
けれど、それにしては遅すぎる時間だ。いつもはもっと早い時間だったように思う。

「なんでこんなに遅い時間なんだよ。」
「え・・と、その・・・」

千鶴は口ごもった。
彼女の性格上、嘘をつくことなどあり得ないし、この場合、嘘をつく必要もない。
それなのに、なぜこんなに躊躇っているのか-少なくとも土方にはそう見えた-わからない。
「なんで隠す。」

土方の声に鋭さが漂ったことに気付き、千鶴はますます身を小さくする。
これはもう隠しきれない。
千鶴はおどおどしつつ、小声で答えた。

「あの・・・夕餉の後、部屋で寝てしまって・・・気がついたらこんな時刻になっていて・・・」

本当に申し訳なさそうに千鶴は言った。

「あの、すみません!つい転寝してしまって!」
「・・・別に転寝くらい構わねえよ。」

こいつは、俺をなんだと思ってるんだ。まさか転寝くらいで斬られると思ってやがるんじゃねえだろうな。

土方は溜息をついた。

「それなら無理に風呂なんか入らず、そのまま寝ちまえば良かったじゃねえか。一日くらい湯を使わなくたって大丈夫だろうが。」
「・・・それはそうなんですけど・・・」

嘘ではないのだろう。だが、まだ千鶴は何かを隠しているような口ぶりだ。
隠されれば知りたくなるのは人間の性というもので。
理由を言え、と土方は言いかけて-そしてやめた。
千鶴の小さな体が小刻みに震えていることに気付いたからだ。

「お前・・っ!」

考えてみれば千鶴は湯上りで、薄い夜着一枚といういでたちだ。夏の暑い日ならいざ知らず、雪が舞うような寒い晩にこんな格好ではすぐに湯ざめしてしまう。

「この馬鹿がっ!」
土方は慌てて羽織を脱いだ。そのまま千鶴の体を覆い隠す。
「土方さん!」
「体が冷え切ってるじゃねえか!」
「ひ、土方さん。声が大きいです・・・!」
「うるせえっ」。

屯所中に響き渡るような声だったが、土方は気にせず羽織ごと千鶴の体を自分の方に引き寄せる。
と、その時。
土方の鼻腔を甘い香りがくすぐった。
ふと見下ろすと、千鶴の濡れた髪が自分のすぐ鼻先にある。

「あ、あの・・・もう部屋に戻りますから・・・」
羽織越しとはいえ、土方の腕にしっかりと抱きかかえられた状態の千鶴は真っ赤になっている。
土方は咄嗟に手を離した。

「・・・早く行け。風邪ひいちまうだろうが。」

土方は低く言った。その目は千鶴を見てはいない。
解放された千鶴はぺこりと頭を下げると、まるで脱兎のごとくその場から走り去った。

千鶴の姿が廊下の向こうに消えると、土方はなぜか顔を顰めた。
それは、胸の中に芽生えたよくわからない感情のためだ。

ガキだと思っていた。まだほんの子供だと。
けれど、髪の香りに感じたのは、まぎれもなく女の艶。

いつのまに-

雪が舞う夜空を見上げながら、土方は大きく息をつく。
その手には、柔らかな肢体の感触がまだ残っている気がした。

*お題配布  天球映写機 さま


関連記事
スポンサーサイト



 関連カテゴリ一覧 ▼ 
総もくじ 3kaku_s_L.png 薄桜鬼 土方歳三
総もくじ 3kaku_s_L.png 薄桜鬼 沖田総司
総もくじ 3kaku_s_L.png 薄桜鬼 原田左之助
総もくじ 3kaku_s_L.png 薄桜鬼 斉藤 一
総もくじ 3kaku_s_L.png 薄桜鬼 風間千景
総もくじ 3kaku_s_L.png 四季綴り-薄桜鬼異聞
総もくじ 3kaku_s_L.png イケメン幕末
総もくじ 3kaku_s_L.png 捧げ物
総もくじ 3kaku_s_L.png その他二次
総もくじ 3kaku_s_L.png うさぎの芸術部屋
もくじ  3kaku_s_L.png ご案内
もくじ  3kaku_s_L.png 作品のご紹介
総もくじ 3kaku_s_L.png 薄桜鬼 土方歳三
総もくじ 3kaku_s_L.png 薄桜鬼 沖田総司
総もくじ 3kaku_s_L.png 薄桜鬼 原田左之助
総もくじ 3kaku_s_L.png 薄桜鬼 斉藤 一
総もくじ 3kaku_s_L.png 薄桜鬼 風間千景
総もくじ 3kaku_s_L.png 四季綴り-薄桜鬼異聞
もくじ  3kaku_s_L.png 鏡花水月
総もくじ 3kaku_s_L.png イケメン幕末
総もくじ 3kaku_s_L.png 捧げ物
もくじ  3kaku_s_L.png 宝 箱
総もくじ 3kaku_s_L.png その他二次
もくじ  3kaku_s_L.png 雑記
もくじ  3kaku_s_L.png イベントレポ
総もくじ 3kaku_s_L.png うさぎの芸術部屋
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類

~ Comment ~

NoTitle 

アップありがとうございますー!
冬のある日に灯るかすかな情欲。いやぁ素敵ですーーー!

前半のね、情景描写がやっぱり良いんです。
うさぎさんの十八番!!
千鶴、めちゃくちゃ冷たい廊下を歩いてるんだろうなーって感じるんです!

>無意識に後ずさった千鶴だったが

私今気付きましたよ!うさぎさんとこの千鶴はよく後ずさるw
そこが小動物みたいでかわいいんだよね(´▽`*)

>これがもし満天の星空の下であったなら、その姿はもっとはっきりとしたものになっていたかもしれない。

おっ。
なんか千鶴がすごく色っぽく見えてきます。
星明かりに照らされるってのもオツですね♪

>こいつは、俺をなんだと思ってるんだ。まさか転寝くらいで斬られると思ってやがるんじゃねえだろうな。

ちょっと笑ったww千鶴ならそう思いかねない!
でも土方はそんな無駄な労力使わないw

>土方は慌てて羽織を脱いだ。そのまま千鶴の体を覆い隠す。

あっ!羽織だ!!!
すっごいあったかそう…
土方怒ってるけど、でもこの羽織に愛を感じます。

>と、その時。
>土方の鼻腔を甘い香りがくすぐった。

うわぁぁぁぁ。
この一文すごく扇情的です。
土方、一瞬固まったんでしょうね。
ガキだガキだと思ってた千鶴に瞬間的にやられて。
感情移入しまくりました!(なぜか土方の方にw)

この話の何がいいって、土方が"ちょっとだけ"千鶴にやられるっていうところです。
屯所時代の土方が千鶴に溺れるっていうのは、どうにも解せない。
(この話何度もしてて耳タコですよね、すみません!)

動揺してるんだろうなー土方。
ふふっ
いつか溺れるんだぜ!知ってるんだから!!!w
そう思わせてくれるひと時でした。
御馳走様です♪♪

グリーンさん 

コメントありがとうございます!

>冬のある日に灯るかすかな情欲。いやぁ素敵ですーーー!

いやあ・・私は ↑ この表現のほうが素敵だと思うww
「かすかな情欲」とか思いつかねーよww

>前半のね、情景描写がやっぱり良いんです。

これ、いっつもグリーンさんが褒めてくださいますよね!
素直に嬉しいです!!
でも実は、あんまり意識して書いてはいなかったりしてw

>うさぎさんとこの千鶴はよく後ずさるw

はっ!
言われてみればそうかもしれない!!
そしてこれからアップする(予定の)お話でも後ずさってる気がする(笑)

>なんか千鶴がすごく色っぽく見えてきます

なんかねー。
まだ「千鶴」ができあがってなくて。
ゲームの千鶴はどっちかっていうと子供っぽい(良くも悪くも)じゃないですか。
そういう千鶴も好きなんだけど、私が書くとどーしても老けてしまう(笑)
総司ともども試行錯誤中です!!

>ガキだガキだと思ってた千鶴に瞬間的にやられて。
>感情移入しまくりました!(なぜか土方の方にw)

あははは!
なんで土方に感情移入www
でもグリーンさんの読みは当たってます!
まだまだ恋愛感情は皆無だけど、なんとなく「おや?」みたいな気持ちが生まれつつあるような感じですかね。

>屯所時代の土方が千鶴に溺れるっていうのは、どうにも解せない

そうですよね!私もそれは同感です!
でも、個人的には「もっといちゃらぶしてくれよ!」っていう願望もあったりするので、葛藤中www

ちょっとね。しまった!と思っていることがあって。
繊月花は時系列に沿って話を進めてたので、キャラの感情の動きが掴みやすかったんですよね。
でもこっちは、思いついた話をつらつらと書いてるので、時系列が前後左右(いや、左右はないやろww)しちゃってるので、キャラの感情の変化がわかりづらいことに気づいた!!
屯所からいきなりED後いったりしますしねえ・・・

ちょっと思案中です!

>そう思わせてくれるひと時でした。
御馳走様です♪♪

いつもありがとうございます!!

NoTitle 

>前半のね、情景描写がやっぱり良いんです。
>でも実は、あんまり意識して書いてはいなかったりしてw

そこなんですよ!
意識してないのに、私の心にはグッとくるわけです。
それってすごいことだと思いませんか!←ジャパネット高田か
冗談はさておき、うさぎさんの情景描写ファンです♪

>ゲームの千鶴はどっちかっていうと子供っぽい(良くも悪くも)じゃないですか。

分かります!
そしてうさぎさんは大人っぽい女性が得意なんだろうなあと、勝手ながら思ってます。
あやめ然り、私んとこの兎を書いてくれた時も思いましたw

でも千鶴の個性なんて、どんどん変えちゃっていいんじゃないですかね?
だってゲーム本編でもルートごとに違うもん。
それが主人公の宿命なのでは(>▽<)

>でもこっちは、思いついた話をつらつらと書いてるので、時系列が前後左右(いや、左右はないやろww)

左右に爆笑ですwww
そりゃぶれすぎだぜ!男女逆転系か?w

長編じゃないんだし、時系列なんて気にしなくてOKですよ♪

その方が読んでても楽しいです!
あ、また新しい○○(キャラ名)だー!って。

グリーンさん 

こちらにもコメントありがとうございます!

>冗談はさておき、うさぎさんの情景描写ファンです♪

うわあ・・・なんか素直に嬉しいです!
ありがとうございます!!

>そしてうさぎさんは大人っぽい女性が得意なんだろうなあと、勝手ながら思ってます。

あ。ばれた(笑)
そうなんですよね。どっちかっていうと「強い女」とか「凛々しい女」に弱いんですww
なんたって理想の女性は「クイーンエメラルダス」ですから! ←ご存じですかね?

なので、どうしても「千鶴」タイプの女の子は書きにくいんです・・・
たとえばあやめと比べた場合、千鶴の方が、内面的には強いような気もするんですけどね。

だから土千も意外と書きにくいww
ゲームの時はなんとも思ってなかったんですけど、自分で二次小説書きだしてから気付いたんですけどね。
私の個人的な印象として、「土方が千鶴に惚れるかなあ?」って思ってしまってww
総司とか原田が千鶴に惚れるのはなんとなくわかるんですけど。

何度もグリーンさんと語りましたけど、土方が屯所時代に千鶴に惚れるのはあり得ない!っていうのも、もちろん「恋にうつつを抜かす男じゃない」ってのもあるんですけど、土方にとって、屯所時代の千鶴は恋愛対象にはなりにくいんじゃないかと。
その後の経緯があっての五稜郭なんだろうなあって思うようになりました。

あら。気付けばつい語っちゃった。
聞き流してくださいねー!

NoTitle 

>なんたって理想の女性は「クイーンエメラルダス」ですから! ←ご存じですかね?

知ってるに決まってるではありませんか(○´艸`)
私はどっちかというとハーロックから入ったんですが、
彼と対等の立場で、別の道を行くエメラルダスには憧れましたよー。
トチローのこと好きだったんですよね。
そこにも痺れました。ああ懐かしい!

>たとえばあやめと比べた場合、千鶴の方が、内面的には強いような気もするんですけどね。

あ。なるほど…そうだったんですね。
あやめはもう少し繊細なのかな。
千鶴は打たれ強いですもんねw

>私の個人的な印象として、「土方が千鶴に惚れるかなあ?」って思ってしまってww

それ分かる気がします。うさぎさんとはまた違う考えかもしれませんが。
うまく言えるか分かりませんが、私が薄桜鬼を始めたとき、
「これは新選組の足跡に重点を置いたゲームだな、恋愛はおまけ要素だな」っていう印象だったんです。
当時のブログでもそう書いたんですけどね。

それはなぜかっていうと、やっぱ千鶴の言動なんですよね。
もちろんどのルートも、何年も一緒にいて段々「なくてはならない存在になった」ってことなんでしょうけど。
恋愛対象になるような女じゃないんですよね、当時の千鶴。
(守ってあげたくなる存在ではある)
何事にも一生懸命で、人の心に敏感で、聡い子ではあると思うんですが、
なんていうんでしょう…もっと「瞬間的に恋に落ちる」みたいなものが、薄桜鬼にはない気がするんですよね。
本能的というか。動物的というか。

わざと無くしてるのかとも思うんですが。
そして読者も、別にそれは求めてないというか。

あーすみません。また訳わかんなくなっちゃったw

グリーンさん 

こちらにもコメントありがとうございます!

>「これは新選組の足跡に重点を置いたゲームだな、恋愛はおまけ要素だな」っていう印象

あ。わかります!
「千鶴」はどちらかというと狂言回し的な役割で、だからノーマルルートなんかだと後半は完全に「歴史を語る立場」になりますもんね。
乙女ゲームだから恋愛要素もいれてはみたけど・・みたいな?

>やっぱ千鶴の言動なんですよね。

うんうん!
まあ登場当時の年齢のせいもあるとは思うんですけど、どう考えても「恋愛対象」じゃない。
庇護欲とか保護欲を煽られる存在ではあると思うんですけど。
手前みそで申し訳ないですけど、「あやめ」なんかは確実に最初から恋愛対象になる存在ですが、千鶴はそうじゃなくて。

>「瞬間的に恋に落ちる」みたいなものが、薄桜鬼にはない気がするんですよね。

まさにそれ!!
「恋に落ちる」んじゃなくて、いつのまにか必要になってた感じ。
時間が千鶴を成長させてるだろうし、ある程度大人になった千鶴だからこそ恋愛対象になったような気がします。
だからどのキャラクターも、千鶴に惚れるのはかなり後ですよね。
惚れるといか、惚れてるんじゃね?って自覚するっていうか。

>わざと無くしてるのかとも思うんですが。

ですね。
なにかで読んだんですけど、製作段階で「原田だけは最初から恋愛中心で」って設定だったそうです。
なんか納得できるwww

>あーすみません。また訳わかんなくなっちゃったw

いえいえ!
こうして語れることが嬉しいです!

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【事件想起 7 (千鶴編)】へ
  • 【たとえそれが気のせいでも】へ